「痛みに耐えて産んでこそ母親」、「痛い思いをして産んだからこそ愛情がわく」、だから「無痛分娩はダメ」…? 出産の痛みと子どもへの愛情を結びつけて考える人は少なくありません。一体この考え方は、どこからやってくるのでしょうか?
無痛分娩だと愛情がわかない?
私は次男を無痛分娩で産んだのですが(結果、めちゃくちゃ痛かったのですが…)、この「無痛分娩だと愛情がわかない」説には妊娠中から色々と思うところがありました。
無痛分娩を検討するようになって以来ずっと私の頭にあったのは「愛情がわかないのでは…」という不安ではなく「なぜ、日本ではそのようなことが言われ続けるのだろう」という疑問の方でした。
出産の痛みと愛情の相関関係は「不明」
お腹を痛めて産んだ子だからこそ可愛いのだ、とか。
痛い思いをして産んでこそ母親として一人前になれるのだ、とか…。
インターネットで質問サイトや掲示板を見ていると、そのような考えを持つ人はまだまだ多いことが分かります。本人は無痛分娩を希望していても、周囲に反対されて諦めるケースもあるようです。
実際に無痛分娩を選択した者としては、「出産の痛みと子への愛情に相関関係はありません!」と、言いたいところです。
が、この記事を書くにあたってインターネットでこの件に関する調査や研究を調べてみたところ、出産方法と子への愛情に相関関係が「ある」とする論文と、「ない」とする論文、両方見つかりました… なので、「医学的に根拠はない」と書きたいところですが、「医学的には不明」ということにしておきます。
不明であるにもかかわらず、出産の痛みと愛情を結び付ける考え方はいまだ根強く残っています(無痛分娩を「愛情云々」で批判する人の多くは、調査や研究のデータを元に言っているわけではありません)。
痛い思いをして産むからこそ子どもに愛情が持てるーー… この考え方は、一体どこからやってくるのでしょう。
「痛かったから可愛い」のではなくて
出産は痛い。稀に結構平気な人もいますが、多くの女性にとってはビックリするほどの痛みです。
私も、長男は普通分娩で出産しました。しかも最終的には吸引分娩になってしまい、陣痛の痛みだけでなく、吸盤のついた器具を産道に入れて引っ張り出さなければならず…。あの痛みは、本当に衝撃的でした。悪夢でした。妊娠も出産も、二度とゴメンだと思いました。
でも、その後生まれてきた長男を見て思ったのです。
ほんっっと痛かったけど、こんなに可愛いのだから産んでよかった、と。
もしかしたら「痛い思いをして産むから可愛い」という言葉は、「痛かったけど、可愛いから産んで良かった」という感情が、変なふうに形を変えてできあがったものなのかもしれません。
「痛かったけど、可愛いから産んで良かった」と「痛い思いをして産むからこそ可愛い」… 似ているようで、全然意味が違う言葉です。
昔は励ましの言葉だったのかもしれない
「痛い思いをして産んでこそ…」という言葉、最近では無痛分娩に対する批判の際に、少し前なら(最近でも?)帝王切開で出産した人に対して向けられることがあり、そのたびに波紋を呼んでいます。
何にせよ普通分娩ではない出産を非難する際に使われる台詞なので、私も耳にするとイラッとしてしまうのですが…
もしかしたらこの言葉、昔々は出産を控えた妊婦さんに対する激励の言葉だったのではないでしょうか?
現代のように医療が発達する前は、出産の痛みは我慢する以外になく、どうしたって避けて通れないものでした。どうしようもない痛みに対してこじつけてでも理由を見出すことで、女性たちはどうにか出産を乗り越えてきたのではないでしょうか。
「痛い思いをするから可愛いんだ!」と、不条理ともいえる痛みと愛情とを結び付けて考えることで、何とか出産を乗り越えてきた… そう思わなければ、我慢ができないほどの激痛です。周囲も「痛い思いをして産むからこそ母親になれるのよ!」と、根性論で励ます他なかったのでしょう。
元々は、妊婦を励ますために、或いは妊婦が自分自身を奮い立たせるために使っていた「励ましの言葉」だったのかもしれないな、という気もします。
痛みに意味を持たせようとするのはやめて
陣痛や分娩の痛みを我慢する以外になかった時代は、この言葉は特段問題にはならなかったのかもしれません。
でも、無痛分娩という選択肢がある現代においては、微妙な言葉です。「痛み」に意味を持たせてしまったばっかりに、「痛み」を取り除こう・和らげようとする行為が<悪>と見なされてしまうからです。
出産経験のある女性が「痛い思いをして産んでこそ…」と言うのは、痛みに耐えた自分を誇りに思っている場合もあると思います。だから、今更その痛みに意味がなかったとは思いたくなくて、そんなふうに言うのかもしれません。
気持ちは分からなくはありませんし、頑張った自分を誇りに思うのも構わないのですが(私も、あの激痛に耐えた自分エライと思いましたし)、だからといって他人にも同じ痛みを強要するのは間違っています。
冒頭にも書いた通り、私は次男を無痛分娩で出産しました。でも、次男は本当に可愛い。結局麻酔がうまく効かず、陣痛は凄く痛かったのですが… だからといって「痛かったから可愛いのだ」とは思いません。
不安を軽減できただけでもよかったし、分娩台に上がってからは、普通分娩と比較しても痛みを感じにくく、冷静でいられました。何より産後の回復が早かったことがとても有難く、無痛分娩には賛成の立場です。
痛みに意味を持たせる文化が一刻も早く薄れ、無痛分娩が広く(心理的にも)受け入れられるようになるといいなあと願っています。
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