大学時代の友人から生保レディに勧誘された
去年、近所に住む友達と久しぶりにランチしたときのことです。彼女とは大学時代からの友達でした。
お互い保育園児の子どもを持つワーキングマザーだったので、話題は自然と仕事のことに。私が会社での惨状を話すと、「それはひどいね!良かったらウチにこない?」と、彼女は言いました。「ウチ」というのは、とある国内大手生命保険会社でした。
友達は生命保険の外交員、いわゆる「生保レディ」だったのです。
彼女もその仕事を始めて一年くらい。それまでの職場が家から遠く悩んでいたところ、保育園のママ友に誘われて、自宅の最寄駅付近の生保会社(営業所)に転職した、ということでした。
ランチをしながら話を聞いてみると… まぁ私に向いているとは思えない。
この時点では「新規獲得の営業はない」、既存顧客のアフターフォローのみ、という話でしたが、たとえそうだとしても、人見知りの私にできる仕事とは到底思えませんでした。
その友人は社交的で、誰とでも打ち解けるタイプ。そして何より「根っからの世話好き」ということもあり、外交員はピッタリだったのでしょう。
一方私は他人と打ち解けるのに時間がかかる方だし、人と話さなくて済むならそれで構わないし、特に人にモノを勧めたり売ったり、というとにかなりの苦手意識を持っていました。
それゆえに、「営業」という仕事はこれまでもひたすら避けてきたのです。
でも、私がそうした考えを伝えると、友人は言いました。
「営業だからって、一方的に喋れる人が向いてるわけじゃない。そういう押しが強いタイプは、逆にお客さんから警戒されることも多い」
「今、同じ支社にいる生保レディにも色んなタイプがいる。あなたみたいに落ち着いた雰囲気の人も多いし、却ってそういう人の方が信頼されて結果を出せる」
「親戚や友達に契約させろとは、絶対に言われないから大丈夫。最初の研修で会社からも、大切な人間関係を壊すような紹介はしないように言われるから安心して」
10年来の友人に言われると、「そうなのかなぁ…」「私にもできるのかな?」という気がしてきます。
しかも! 私はちょうど、会社で(またしても)イヤなことがあった直後でした。
生保レディという仕事への興味からというよりは、「今の環境から逃げ出したい」という症状が強く出ていた時期だったことから、友人の言葉にぐらりと心が動いてしまったのです。
「とりあえず、オフィスの雰囲気を見に会社に遊びに来てみたら?」
友人の猛プッシュを受け、後日私はその生命保険会社の営業所を訪問することにしました。
が。結論から書いておくと、その営業所訪問は私にとって最悪の体験となりました。
もちろん、転職もしなかったし、今後顧客としてその会社の保険に加入することもないでしょう。そう感じた理由について、書いていきたいと思います。
汚く、殺伐とした雰囲気のオフィスで
「お子さんもぜひ連れてきてね!」と言われていたので、息子とともにそのオフィスを訪問しました。
駐輪場に自転車を止めて、まず目に入ったのが、枯れた観葉植物の植木鉢がふたつ…。その時点で、物凄くイヤな予感が。
その後、通された会議室も、お世辞にもキレイとは言えませんでした。
普段は(私のような)採用候補者を呼んで、その部屋でイベントを開催しているそうです。
なるほど、確かにそれっぽいポスターやポップなどが部屋の四方に貼られていて、アットホームな雰囲気を出そうと努力している跡は見受けられます。
が、カラフルなポスターの裏側から、どう頑張っても隠しきれない殺伐としたものがモヤモヤ~っとにじみ出ているような気がして、私は落ち着かない気分になりました。
装飾の楽しそうな色合いやキャラクターとは裏腹に、それらがセロハンテープで無造作に貼られている点や、破れかけ、剥がれかけている点からしても、もう不吉な予感しかしてこない。
極めつけは、窓辺に設置されたブラインドでした。折れ曲がって、左右がずれまくりで、まるで廃墟のようです。社内の人は誰も、あのブラインドを見て直そうとは思わないのか… 或いは、ブラインドのことなど気に掛けている余裕がないということなのか。
子供用に用意されているらしいおもちゃも、壊れかけ、色が剥げたものばかり。何だか薄汚れていて、さほど潔癖というわけではない私ですら、息子には触らせたくないと感じました。
「生保レディ」は営業職なので、外に出ていることが多いとはいえ、そのオフィスをホームとして仕事をする気にはとてもなれません。
何より、全体的に殺伐としたオフィスから感じられる「ピリピリ感」が、一気に私の警戒心を掻き立てました。
次々と役職者が現れ囲まれる
最初はお茶を飲みながら、友人と話をしていました。
しばらくすると「リーダー」だの「チーフ」だの、「支店長」だの、次々と役職者が現れて、最終的には1対5でぐるりと囲まれてしまいました。
そして皆口々に、私に今の会社を辞めるよう勧めてきます。何だか非常に居心地が悪い…。
「勿体ないわ~。そんな仕事、ぐる子さんでなくてもできるんじゃない?」
「あなたには、もっと大きな組織の方が向いてるんじゃないかしら」
「頑張ればそれだけ収入も上がるし、数年目で年収500~600万の人もいる。そういう意味でも夢がある仕事」
「ここはワーママが多い職場だから理解もあるし、子育てとの両立もしやすいと思いますよ」
息子も異様な雰囲気に戸惑い、すっかり大人しくなってしまっています。
私の現職の会社を批判して、それによって相対的に私のことを持ち上げて、自尊心をくすぐろうとしている感じなのですが、どうも薄っぺらいというか、胡散臭い感じがして仕方がありません(だって友人以外は今日初めて会った人ばかりだし、誰も私のことなんて知らないでしょ!)。
みんな、「(成果次第で)大きな収入を得られる」「福利厚生が充実している」「子育てとの両立がしやすい」など、待遇の話しかしないのです。
誰一人として、具体的な仕事の話はしません。尋ねてみても、なんだか抽象的な答えしか返ってこない。
大変なこと、難しいこと、でもよかったのです。むしろ、誰にでもできる仕事ではないと分かっていたからこそ、自分にもできそうか、それともやっぱり無理なのか… その判断材料となるような話を、私は聞きたかったのです。
しかし意図的になのか、そうでないのかは分からないにしても、変におだてられるばかりで具体的な仕事に関する話がまったくと言っていいほど出てこなかったことは、その会社に対して不信感を募らせる原因になりました。
また、私にとって決定的(に、ダメ)だったのが「採用責任者」だという男性のこのセリフでした。
「契約が取れなくて3ヶ月で辞めたとしても、稼いだ以上のお給料はもらえるんだから(研修期間は収入保障があるため)、入社しても損はないですよ!」
…いやいやいや。
もし3ヶ月で辞めてしまったら、私は大損ですよ。わざわざ今の仕事を辞めて転職したとして、それで3ヶ月で辞めてしまったら、私には何も残らないじゃないですか。
彼が何を言いたかったのかは、よく分かりません。
研修期間は収入保障があるから安心してね、ということだったのか。
それとも、まずは「3ヶ月お試し」くらいの気軽な感じで働いてみたら? とでも言いたかったのでしょうか。
いずれにしても彼のセリフは、完全に経営側の言葉だと感じました。しかも、明らかに社員を使い捨てと考えているし、辞めた後もその人の人生は続く、ということを無視した考え方です。
(その時点で私が専業主婦だったのであれば、「試しに働いてみたら?」という言い方も、アリだったかもしれませんが)
働く側としては、できるだけ長く、ひとつの仕事を続けたいと思って当然でしょう。
短期で離職してしまう結果に終わっても「利益は上げられなかったけど給料はもらえたから、損はしてないよね」なんて思える、おおらかな人は稀だと思います。
彼の言葉には、嫌悪感すら感じました。
ちなみに友人が言っていた、「新規獲得の営業はない」という話は、残念ながら嘘だったようです。既存顧客のアフターフォローのみなのであれば、「契約が取れなくて3ヶ月で辞めても…」なんて言葉は出てこないはずですから。
この責任者氏がうっかり口を滑らせた… のかどうかは分かりませんが、「やっぱりな」という感じです。
研修の申込書を強引に記入させられた
最終的に、「ぐる子さんはウチの会社に入社すべき。まずは、次回開催される研修に参加しましょう」と勝手に話がまとまってしまいました。
一方私のほうはというと、たった数時間で、その会社・仕事への興味は、きれいさっぱり消え失せてしまっていました。もう、お腹一杯でした。早く帰りたい!
研修なんかに参加してしまったらますます逃げ辛くなると思った私は、「参加はできない」と断りました。
色々話を聞いてみた結果、やはりこの仕事は向いてないと思う。できる気がしない、と。
研修についても、平日に連続して休むのは難しい。仕事の都合もあるし、入社1年目で有休もほとんどないので無理です、と伝えました。
すると今度は、「今すぐ参加できなくてもいいから、書くだけ書いてください」と…。
書かなければ、帰れない雰囲気です。それに友人の手前、あまり頑固に断るのも彼女に悪いような気がしてしまい、記入せざるを得ませんでした。
「じゃあ、この申込書は大切に預かっておくからネ!」
そう言って、友人の上司は私の申込書をファイルに閉じていましたが… 私はその強引さに嫌気が差してしまいました。
この人たちは保険の契約の時にも、こうやって強引に、相手の気持ちなど無視して、一方的に話を進めているんだろうか。
むしろこのくらいの強引さがなければ、やっていけない仕事だということなのかも。だとすればいよいよ、私にはできない。
「絶対にここでは働かない」… オフィスを出るときには、そう決意を固めていました。
会社がイヤでイヤで堪らないタイミングで紹介されたため、ついつい興味を惹かれてしまいましたが、オフィスを訪問した途端、我に返ったような感覚でした。
一言で「生命保険会社」といっても様々な企業があると思うし、同じ会社でも支社によってもカラーは違うとは思います。私が訪問したような職場ばかりではないことを願いますが、それでもあの営業所だけが特殊とは思えません。同じような経験をしている方も、結構いるんじゃないでしょうか。
後日、友人には改めて断りましたが、やっぱり何となく疎遠になってしまいました。
そのことだけは、残念でなりません。